去年の暮れ頃から急速に広がりを見せている人気コンテンツ「バーチャルユーチューバー(VTuber)」。モーションキャプチャーに連動した3Dアバターを使い、かわいらしいキャラクターを活かして動画配信活動をするというもの。市場規模としてはYouTuberには及ばないものの、まだまだ伸びしろがあるため将来性は十分といえる。
配信者は5000人を突破。大手企業の参入や手軽に始められるサービスも増え、各方面で盛り上がりを見せている。しかし、その裏では炎上騒ぎや乞食まがいの行為をする者も現れているのが実情だ。そんなVTuber増えすぎ問題について考えてみた。
やっていることは正直YouTuberと変わらない?
私がVTuberに注目し始めたのは今年初めに「輝夜月」の動画を見た時だ。それまで全く興味がなかった(存在を知らなかった)ジャンルだったが、良く動くアバターとマッチしたキャラクター性に衝撃を受けた。動画1本当たりの時間も短めで、忙しい時でも見やすい。いい意味で内容が薄いので気軽に楽しめる、元気をもらえるコンテンツだといえる。
ジャンルとしての人気も急上昇していたので、他のVTuberも気になって視聴したのだが、そこで決定的なことに気づいてしまった。「これYouTuberと全く同じことしとるやないか!」。そうなのである。実は「人気のネタをバーチャルキャラクターにやらせたら」といったノリの動画がほとんど。仮想空間を活かした動画はほんの一部しかなく、かわいらしいアバターで配信していること以外はYouTuberやライブ配信者と何ら変わりはないというのが悲しい。
にじさんじ めちゃくちゃ面白いんだけど、結局やってることとしては普通の生主やYoutuberと変わらないっていうのが危うさを生む原因でもあるのかな キャラと中の人の矛盾性が凄く面白いのに、見方を変えればただの中の人だからね vtuber全体でも言えるかもだけど、ならではを出せれば最強だと思う
— ビリ春ちゃん (@believe_haruka) May 7, 2018
それでも、個々の個性をなんとか絞り出して、じわじわと人気を獲得していく姿を見ると多くの人は応援したくなるというもの。近年のアイドルを筆頭に、はるか遠い芸能人よりも少し手を伸ばせば届きそうな存在に魅力を感じる人が増えているようだ。
バーチャルYouTuberが何千人になって何が悪いの?
増えすぎ〜って言いたいだけでしょ?
漫画、アニメだって何百何千タイトルあるんだからそれと同じでしょう
好きなキャラが何人いても良いと思う
「バーチャルYouTuber」っていうジャンルが好きなんだもん。— YukiNaバーチャルYouTuber応援 (@yukina_vtuber) September 13, 2018
おじさんが美少女になれる世界線
「今日から美少女になるからよろしく~」とツイッターでつぶやく。突然何を言い出したのかと思われそうだが、そんな夢物語が現実になっているのがVTuberの世界である。
なんと一部では男性が女性のアバターを使って活動することも受け入れられているのだ。通称「バ美肉おじさん(バーチャル美少女受肉おじさん)」と呼ばれ、かわいくなりたい(?)おじさんが美少女の肉体を得て配信するという狂気的な内容である。冷静に考えて怖すぎるのだが、自らおじさんであることを公表しつつ、ボイチェンなどを使って女の子らしさを追求することで意外にも人気を得ている。
中の人はイラストレーターが多く、自分が理想とするキャラクターを自由に作れるのもメリットだろう。愛がこもった自作のモデルを好きに動かせる楽しみが大きいようだ。実際に動画を見てみると「あれ?女の子よりかわいいのでは……」と錯乱すること間違いなし。なぜなら、本物の女の子ではマイナスポイントとなりがちな「あざとさ」を武器にできるから。視聴者側は男である前提で見ているので、あざとさがマイナスになることはない。むしろかわいくなろうとしているおじさんを不思議と応援したくなるのだ。
オタクが清楚な女を求めて、「清純な格好の女の子…地雷だった!」「自称処女は処女じゃない!」「オタク姫はウェイと付き合ってた!」と現実に絶望していった結果、自分達こそが「異性経験&影がなくて、ヲタクに優しい子=理想の美少女」だと気付いたのが、バ美肉おじさんブームだと思う#清楚ガチャ
— 脱税レイヤー風呂屋さん (@557dg4) September 7, 2018
通常はネット上で男性が性別を偽って女性のふりをする「ネカマ」は嫌われることが多いのだが、バ美肉おじさんは最初から男性であるということを前提にしているため、ファンとしては何ら問題がないのだろう。
SNSでは「むしろおじさんのほうが安心する」「おじさんだからかわいい」といった声が多いのも面白い。確かにむさくるしい男だらけの世界を見たい人は少ないだろうから、理想を追求したバーチャル業界では理にかなっているのかもしれない。
兎鞠まりちゃんかわいいってマジさぁ……ほんっとにさぁ!!
なんなの!?ねぇ!バ美肉ってなんなの!?なんでおじさんからこんなにかわいい存在が生まれるの!?否、おじさんがかわいいだったのよ!!そうよ!!愚か者!!バ美肉で得たものはあくまでガワだけ!!魂がかわいいの源なんだって証明!!— 御伽sound (@otogi_sound) September 11, 2018
「よし明日から美少女になるか!」急に頭がおかしくなったと思われそうな発言だが、こんな時代だからこそ楽しまないのは損というもの。我こそはと考えるおじさんは参入してみるのも手かもしれない。『狂気の沙汰ほど面白い』そんな名言が輝く世の中になってきた気がする。
ああああああああ!!!!
これはもう女の子ですわ!!!!女児!!!!!俺もバ美肉したい!!!!!かわいい美少女になりたい!!!!!!— たるすけ (@tarukasyudarume) September 3, 2018
人気獲得のための炎上は逆効果
人が増えすぎたコンテンツにありがちなのが、他者を傷つけるような過激な発言や行動で人気を獲得しようとする動きである。個人的にものすごく嫌いな行為だ。そういった動画は見ていて痛々しいだけで、面白がって盛り上げている取り巻きも配信者を持ち上げて笑いのタネにしているだけに過ぎない。
それをわかっているのか、わからずに踊らされているのかは定かではないが、往々にして消えることがない悪い慣習といえる。過去にYouTuberやライブ配信者でも問題になったが、人気を得るために他者への迷惑を省みないのは本当に冷める行為だ。やったところで誰も得しないのは火を見るよりも明らかである。当たり前の話だが、炎上するような行為で掴んだ人気は一過性のものでしかない。
飽きられるのを恐れて過度な炎上行為を繰り返せば、最後には破滅する未来が残されている。また、度が過ぎると犯罪のきっかけとなったり、収束が難しい騒動になってしまったりすることもあり得る。しかし、活動を続けるためにはある程度の資金が必要なため、人気を得るために炎上行為をしてしまうVTuberも増えるかもしれない。5000人以上もいれば当然ながら人気は分散し、特色を出すのも難しくなるだろう。
だからといって、炎上まがいの行動をしてわざとらしいハプニングを起こすのは薄ら寒いという感想しか浮かばない。
なんの事とは敢えて言わないけど炎上ネタで伸びようとするVTuberは一度この界隈勉強してから出直してこい
今まで誰一人として有名になれず沙汰されていった事が分かればする訳無いんだし— スローロリス (@Hika5Pikachuu) September 13, 2018
配信者を名乗るなら動画の中身で勝負するべきだ。それこそ失敗してもいいという覚悟で、人の真似ではない革新的な動画を作るVTuberが現れることを願っている。5000人もいるなら一人くらいはそんなパイオニアが出てくるのでは、と期待してもいいのではないだろうか。
まとめ
VTuber増えすぎ問題について触れてきたが、ほとんどが他の動画コンテンツでも同じように起きているものばかりであるといえる。増えすぎたVTuber達の戦いは群雄割拠の戦国時代さながら、といったら言い過ぎだろうか。しかし、生き残ったものだけが、次のステージへ行けるという点ではあながち間違えではなさそうだ。個人的には、VTuberは一過性のブームではなく、進化し続けるエンターテインメントを目指してほしい。
今後もこのまま3Dモデルの人気が続けば、映画「サマーウォーズ」で描かれていたように、だれもが仮想世界でアバターを使って自由に遊べる感覚で広がっていくのではないかと予想している。希望的観測ではあるが、視聴者を含めた全員がVR化して交流する未来もあり得ない話ではないだろう。
現状は配信者の人口が増えすぎていることもあって、さすがに初期ほど多くの動画を追えていないが、その分視聴する楽しみも増えるというもの。VTuberのさらなる発展を期待して、これからも粛々と応援していきたい。