中小企業は働き方改革の前にすべきことがあるのでは?という話

中小企業は働き方改革の前にすべきことがあるのでは?という話

いまや、さまざまなメディアで取り上げられている政府の働き方改革ですが、一部の企業を除いて、なかなかその成果が報告される例は少ないのが現状ではないでしょうか?

事実、中小企業で働く友人達に聞いてみても「そういう話もあったなあ」といった程度で、これまでの働き方に何らの変化も生じていないようです。ビジネスシーンでも話題にすらのぼらないのが現状で、お酒の席でもそういった話はまず聞きません。

そこで、個人的に調査したデータや話をもとに、特に中小企業の働き方改革の現状について少し掘り下げて考察してみることにしました。

長時間労働の是正は成果が出ているか?

そもそも働き方改革は、政府が主催する「働き方改革実現会議」が開催されてから広まった言葉のようです。当たり前の話ですが、マスコミが取り上げる以前は、それぞれの企業が勝手に職場の改革を行っていました。

同会議では「非正規雇用の処遇改善」や「賃金の引き上げ」「労働生産性の向上」などに加えて「長時間労働の是正」をもっとも優先すべき課題として掲げています。

特に医療業界など長時間労働が蔓延しやすい業界では、厚生労働省が緊急対策案を推進することも決定しているようです。独自の推進案を国として提唱することで、何とかしてわが国が「長時間労働が当たり前の「ブラック社会」というイメージを払拭したいのでしょう。

それはそれで結構なことなのですが、多くの企業はこの「長時間労働の是正」を「残業をなくす」こととほぼイコールで捉えているのが実態です。それによって、社員のモチベーションの低下やサービス残業の増加が問題となるケースが目立っています。

働き方改革は社員のモチベーションを低下させる?

このことに関して、個人的に関わりのある人材サービス会社の社長の話を紹介します。

彼は働き方改革の題目のもと、思い切って残業ゼロを断行したはいいものの、それによって却って社員のモチベーションが下がってしまったと嘆いていました。どうやら一般社員レベルでは働き方改革はいまだ画面の向こう側の出来事といった感覚のようですが、経営者レベルでは思うところがあるようです。

詳しい経緯までは話してくれませんでしたが、現場に理解のある経営者と思われたかったという気持ちは理解できます。ただ結果として、彼の「残業ゼロ」の試みはわずか3ヶ月もかからず破綻してしまったのです。

というのも、彼の会社は創業当初から、結果を出せば出すほど高いインセンティブを払うシステムを敷いており、多くの社員はこのインセンティブをモチベーションの拠り所として働いていました。実際、営業部の社員を中心に積極的に残業することでノルマを達成するという働き方に慣れきっていたわけです。

そんな状況でワンマン社長が「思いつき」で残業ゼロを掲げてしまったものだから、これまで高い収入目当てに夜遅くまで仕事をしていた社員達は、残業代のカットと労働時間の強制的な短縮というダブルパンチを食らってしまったのです。

ブラック企業のレッテルを恐れる経営者

当然、自社の状況を鑑みず短絡的に残業ゼロを断行してしまった彼の選択に問題があるわけですが、彼はけっして残業代をケチりたかったわけではありません。職場環境を改善し、社員をはじめ周囲に「ホワイトな企業」であることをアピールしたかっただけなのです。

多くの人にとって奇妙に感じられるかもしれませんが、最近は彼のように自分の会社が「ホワイト」であることをアピールしたがる経営者が増えているようです。

中小企業の社長の多くは働き方改革などどこ吹く風の様相で、これまで通りの経営スタイルを何ら変えていないのが実態ですが、彼のように政府が掲げる政策に耳を傾ける場合もあります。こういったタイプの経営者は、自分の会社に「ブラック企業」のレッテルが貼られることを恐れているのです。

中小企業にとって働き方改革は的外れ?

繰り返しますが、彼の決断が経営者として適切なものだったかといえば、当然そんなことはないでしょう。実際、多くの人が「短絡的過ぎる」とツッコミを入れたくなるはずです。しかし、存外中小企業の経営者というものは、その場の雰囲気や体裁で一方的な意思決定をする人が多いです。

そして、そういった職場では、経営者の思いつきによって環境が目まぐるしく変わってしまうことになります。そのきっかけが働き方改革という、本来労働者にとってプラスにはるはずの政策だったとしてもです。

無論、社員を過酷な環境で不当に働かせ続けるブラック経営者は排除されるべきです。それは論外としても、彼のように自社の状況を省みず、一見正しい政策を導入することが必ずしも正解とも限らないわけです。逆に社員のモチベーションを下げてしまうケースもあるということを覚えておく必要があります。

これは現在のわが国の中小企業の多くに当てはまることではないでしょうか?

少々穿った見方をすれば、それだけ政府は中小企業の実態にそぐわない政策を掲げているともいえます。とりわけ過酷な労働環境にある業界では、その実態と政府の掲げる改革との齟齬に辟易している印象があります。

期待すらされていない業界もある

たとえば厚生労働省が緊急案を推進している医療分野などでは、あまりにも実態にそぐわないため働き方改革に「期待すらしていない」という声が多いようです。

事実、医師と医療機関のマッチングを行うサービスを提供しているエムステージは、7月に医師の働き方改革に関するアンケートを実施していますが、7割以上の医師が働き方に関する何らかの改革は必要と回答したものの、8割が改革によって実際の労働環境にプラスの影響が出ることは「期待していない」と回答しています。

※アンケートの出典は:https://www.mstage-corp.jp/2018/07/02/1538/

医療現場といえば、慢性的な長時間労働や過酷な勤務状況が問題視されており、常に現場の「ブラックぶり」が囁かれる業界です。そんな環境で働く人々が「改革が必要なのはわかるが、無理だ」と諦めの声を上げているわけです。

特に「自分達も残業はしたくないが、状況がそれを許さない」と回答している点は注目に値します。いくら政府が「長時間働くのは生産性が下がるから止めましょう」と声高に訴えたところで、目の前に多くの患者をもつ医師達にとって、それは現実的に無理な話なのです。

まずは現状を把握せよ

このように、実際の現場の状況を知らずして、お題目だけ掲げたところで働き方改革は浸透していかないでしょう。至極当たり前の話ですが、政府の提言者のみならず、上述の人材サービス会社の経営者のように、実際に日々現場に関わっている者ですらそのことを忘れてしまうことがあります。

政府はあくまでも提言する立場ですから、やはり現場の指揮権を握る経営者が積極的に現場の実態を知り、それに見合った改革案を漸進的に進めていくほかないでしょう。どんな業界であっても、他の職種と同じ改革案を当てはめるには無理があるのです。

自分達の業界の特徴を理解し、どういう改革案が効果的かを企業単位で試行錯誤する必要があります。「他もやっているから」という理由で安易な改革を断行すれば、手痛いしっぺ返しを食らうかもしれません。

特に中小企業の経営者は、声高に改革を叫ぶ前に「自社を知る」ところから始めてはいかがでしょうか?それが自社に見合った働き方改革を実現するための第一歩だと思われます。

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