「エヴァ社会」への刻印

「エヴァ社会」への刻印

時に西暦2018年。人類を「エヴァンゲリオン化」する計画が立ち上がりました。その計画のために誕生したのが、「エヴァハンコ」です。

「エヴァハンコ」の衝撃

最近、ネットサーフィンをしていると、ある一行に思わず目がとまりました。

”近未来のハンコ”をイメージした、超金属チタン製のレアメタルはんこ「Ti零号」――。
このプレスリリースが、発表時、PRTIMESの「いま話題のプレスリリース」10位に入るなど話題になりました。(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000156.000013389.html)

見れば、あの六角形の並ぶ画面を背景に、「時に、西暦2018年」の出だしで広告サイトが書かれています。思いっきり『新世紀エ○ァンゲリオン』を彷彿とさせるデザインじゃないかっ!

六角形をモチーフとしたデザイン、懐かしい極太フォントで「田中」「鈴木」「山本」などと刻印できるようです。

私はエヴァ世代。リアルタイムでテレビの前にかじりつき、毎週の放送を楽しみにしていた私にとって、これはどうしようもなくワクワクが止まらない!いわば「エヴァハンコ」とも言える代物です。

無性に「エヴァハンコ」への所有欲をかき立てられた私は、ページを調べ始めました。

材質は、ロケット部品にも使われるレアメタル・チタン製。全長60ミリ、直径15ミリ。普段遣いだけでなく銀行印としても使えるなど、スペックの紹介がなされています。全5種類のデザインがあり、それぞれ「零号」「初号」「弐号」「参号」「四号」と命名されているようです。

なぜ、私はこんなにもエヴァハンコに引かれるのでしょうか。

それは、この「エヴァハンコ」が、エヴァンゲリオン化する社会での存在証明となりうることを期待させるからなのです。

エヴァンゲリオン化する社会

エヴァンゲリオン化する社会とは~この20年間の労働社会の変化を指す言葉

『エヴァンゲリオン化する社会』とは、労働社会学者の常見陽平氏の著書の題名であり、日本のここ20年間の労働社会の変化を指す言葉でもあります。

本著の中で常見氏は、1995年に放送開始されたこの作品が、その後20年の状況を暗示していたと語っています。

作品になぞらえ、「若者に極度の期待と負荷がかけられ、世界の責任をすべて個人が背負っているように感じさせる社会」「人が目標達成のための駒のように扱われる社会」「『使徒』のような得体の知れない恐怖が常に忍び寄ってくる不安定な社会」の3項目を挙げ、日本の労働者会がエヴァンゲリオン化している、と指摘しているのです。

ここからは、作品内の有名な登場人物のセリフになぞらえ、本書の要約を記したいと思います。

逃げちゃ駄目だ~若者への過度な期待と負荷


出典:https://blog.goo.ne.jp/antijapanhunter/e/94f03e23b56b6142ae29d3f15b5746e0

第一に挙げられるのが、『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公である碇シンジの有名なセリフ「逃げちゃ駄目だ」です。

常見氏は、このセリフこそ、職場や仕事から逃げられない時代を物語っていると語っています。
奇しくも「ブラック企業」「ブラックバイト」の文字が紙面をにぎわせている現代は、まるで作品内で、主人公に厳しいミッションを与え、とことん使い潰す姿に重なります。労働環境は人手が不足し、以前よりも即戦力が求められ、若者の責任が増してきているのです。

しかも若者の人口は今後も減少し続けています。この問題は、今後も社会問題として存在し続けるだろうと指摘しています。

私の代わりはいるもの~非正規雇用の拡大、大学生の就職難

第二に挙げられるのが、『新世紀エヴァンゲリオン』の「ヒロイン」として一般的に紹介される綾波レイのセリフ、「私が死んでも代わりはいるもの」です。

水槽に大量に浮かぶ綾波レイの身体は、使い捨てられる労働者像を彷彿とさせます。大卒者の就活、非正規雇用者の増大の光景です。

企業の本質は永続的な価値の想像と利益の追求である以上、従業員が入れ替わっても安定的に存続、成長することが期待されます。

大学進学率の上昇、大学・学部の増加を背景に、大学生はありふれた存在となりました。気づけば、「取り替え可能な存在」のように感じる若者が増えていると常見氏は言います。

さらに、この時期は「就職氷河期」とも重なる。高学歴の非正規雇用者が増えたことも見逃せません。

本作品は、若者を目標達成のための駒のように使う風潮を予言していたとも言えます。

僕はここにいていいんだ~居場所

第三に挙げるのが、「僕はここにいていいんだ」という『新世紀エヴァンゲリオン』のTV版最終回における主人公のセリフです。この「居場所」という問題は、ここ20年の労働者にとって問われた問題だったと考えられます。

「若者は3年で会社を辞める」という現象は、この20年間で表面化してきました。企業では、従業員のモチベーション維持のため、いかに社内に「居場所」をつくるかに試行錯誤しています。

ネット上のSNSコミュニティでも居場所を求め、「ぼっち」を極端に恐れる若者が増えています。

あの賛否両論を呼んだ奇妙なラストで示されるエヴァンゲリオン。その強がりにも聞こえる「ここにいていいんだ」とは対照的なのが、ロボットアニメの『機動戦士ガンダム』だと常見氏は語っています。

ガンダムの最終回でも主人公アムロが「僕には帰れる居場所がある」と言いますが、こちらはより現実的です。ガンダムは、エースであることを期待され、社内の人間関係のトラブルに悩みつつ、立派なサラリーマンになっていく昭和のサラリーマン社会の縮図のように見えます。

エヴァ社会への変化を生き抜いてきた僕ら

思えば、僕らはエヴァンゲリオン化する社会という壮絶な時期を生き抜いてきたのです。
そんな僕らにとってエヴァハンコは、「僕はここにいるよ」の存在を証明する刻印であり、厳しい戦いを生き抜いてきた互いへの賛歌なのです。

きっと、このハンコを手に、会社の壮絶な責任を背負いながら、夜な夜な「62秒でケリをつける!」とかいいつつ書類にカツカツ捺印するエヴァ世代が、日本中にあふれるに違いないのです。

しかし、きっとその時には、シンジくんというよりも、碇ゲンドウのようなポーズになっているに違いないでしょう。そう、僕らはもう、作品が発表されたときとは違う。大人になったのです。


(出典 livedoor.blogimg.jp)

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