昨年から東京オリンピックの開会式が開かれる7月24日をテレワークデイとして、全国的にテレワークの実施が呼びかけられています。
これは総務省などの各省庁が主導で展開しているもので、オリンピック期間中の都内の混雑を解消するための予行演習的な意味と、働き方改革で在宅勤務を含めた柔軟な働き方を推進しようとする意図があり、一部の大手企業でも社員のリモートワークを推奨するなどの取り組みを行っています。
そしてこの広がりによって、日頃から自宅や自分の好きな場所で働いているフリーランスに活躍の場が広がるのではないか?という見方も出ているようです。
そこで私自身や周囲のフリーランスの実態をもとに、テレワークの広がりが与える影響や、フリーランスとして働くうえで注意すべき点について考察してみました。
そもそもテレワークとは何か?
そもそもテレワークとはどういう働き方なのでしょうか?
総務省によると、テレワークは『ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方』と定義され、主な形態としては、企業に勤める人々が行う在宅勤務やモバイルワーク、施設利用型勤務と、個人事業主や小規模事業者が行うテレワークに大別されます。
特に後者は、事業性が高い仕事をするSOHOと独自自営の程度が低い「内職副業型」に分かれています。
出典:総務省ホームページ
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/18028_01.html
つまり個人事業主に該当するフリーランスの場合、企業人のような勤務形態による分類ではなく、その専門性の高さによってスモールビジネスと副業・内職に切り分けられるのみで、その具体的な働き方については注目されていないということです。
フリーランスは自由な働き方ができる?
こういった分類から分かるように、フリーランスといえば「自由な働き方」や「好きな時間に好きな仕事をする」といったようなイメージが背景にあり、その実態や具体的な働き方については思い込みで語られるケースが多いです。
少々乱暴な言い方をすれば「フリーランスなんだから好きな時間に好きな働き方をしているんだろう」という思い込みが先行しており、その実態にまで踏み込んで働き方の改革を提案する動きはまずありません。少なくとも、政府の掲げる改革案のなかにはそういったものは皆無です。
しかし、実際はそう簡単な話ではありません。私自身の経験も含みますが、世の中のフリーランスの多くは、自由で柔軟な働き方を実現する前の段階で苦労をしています。
フリーランスが一番欲しいのは?
フリーランスの多くは元企業人であり、期間の差はあれど一度は会社勤務を経験したことのある人です。
なかにはフリーターの延長線のようなかたちで活動している人もいますが、大部分はフリーランスとして独立した人々です。実際、私自身や周囲の事業主として活動している人々も、会社勤務によって独自のスキルを身に付け、それを武器に独り立ちした経緯があります。
そして、独立してはじめに直面する大きな課題は「どうやって継続的な売り上げを確保するか?」ということです。フリーランスには何かあっても守ってくれる会社という組織はないので、全て自己責任で行う必要があります。
そんな状況で働き方などを考えている余裕はなく、とにかく仕事を依頼してくれるクライアントを確保し、目下の生活を安定させる。少なくとも独立したてのフリーランスはこの繰り返しです。
そんな状況で最も欲しいのは柔軟な働き方や自由な時間ではなく、一にも二にも「優良な案件」なのです。
理想と現実のギャップに苦しむ人々
このように、独立したてのフリーランスは売り上げに奔走する生活を続けることになります。なかにはサラリーマン時代の伝手で優良案件を確保する人もいますが、それにも限界があるでしょう。
多くの人は「好きな仕事を好きな時間に、好きな方法でやりたい」という理由でフリーランスの道を選択するケースが多いですが、当初の理想と現実のギャップに押し潰されそうになる人は少なからずいます。
総務省がテレワークの効果として掲げる家族と過ごす時間や子育ての時間の確保は耳当たりが良いですが、これはあくまでも企業人がテレワークを実践した場合にもたらされる恩恵であって、自らビジネスを行う必要があるフリーランスには必ずしも当てはまらないことは留意すべきです。
テレワークの広がりでフリーランスの生活はどうなるか?
冒頭でテレワークが一般化することによりフリーランスの求人が増えるのでは、という期待をもつ人もいることを紹介しましたが、現段階でははっきりとした展望はないものの、案件数の増加という点のみでいえば希望をもってもよいでしょう。
こういう働き方が一般化すれば、必要な業務を外部委託することで人件費を削減しようとする企業は増えるはずです。
そうなると案件ベースでの仕事が増え、フリーランスとして多くの企業から様々な案件を受けられる可能性は高まります。それが生活の安定に寄与することは間違いないでしょう。既に企業のなかには、個人事業主同士のチームとして案件ベースでビジネスをしている所もあります。
しかし注意すべきなのは、案件増加がそのままフリーランスとしての理想を叶えるものではないということです。先述のように、独立したてのフリーランスにとっては案件を増やすことが第一ですが、それだけで理想の生活が実現できるかといえば、決してそうではありません。
「安定」の先に待つものは…
確かに長期的な売り上げの目処が立ち、生活の心配をする必要がなくなるのは非常にありがたいことです。独立しても上手くやっていけるということで自分に自信がもてるようになる人も多くいます。
しかしその一方、常に仕事に追い回され、サラリーマン時代の倍近くも働いているという人は多いです。フリーランスは自分が働くほど収入は上がりますが、逆に言えば、常に働き続けなければ収入が止まってしまうという面があります。
特に今はネット環境さえあればどこでも仕事ができる環境にあり、それはそれで良いことなのですが、カフェや図書館など、さまざまな場所で仕事に追われるフリーランスを量産することにも繋がっています。
テレワークの拡大はフリーランスにとって追い風となりえますが、どんな状況になろうとも、フリーランスは自分で自分をしっかりマネジメントしなければ、常に仕事に追い回される状況になってしまいます。そうなると、独立前に思い描いた理想や安定した生活は遠ざかってしまうでしょう。
社会的な状況がどうあれ、自分で自分をコントロールする能力が最も重要なのです。
結局、セルフマネジメントがすべて
総務省はテレワークの意義や効果のひとつとして「ワークライフバランスの実現」を掲げていますが、実際には企業人向けの政策という面が強く、働き方という面でフリーランスにそれほど影響はないでしょう。
ただ、テレワークの促進によって受注できる案件が増える可能性はあります。その点では追い風といえますが、どれぐらいの案件を受注し、どういうスケジュールでこなしていくのか、基本的な計画を特にシビアに行う必要があり、状況に応じて適宜変更するマネジメント力が求められます。
将来、フリーランスとして独立を考えている方は、まず自分を上手くマネジメントするスキルを身につけましょう。重要なのは、外部の状況ではなくフリーランスとして生きていくという覚悟なのです。