ここ数年、いわゆる「意識高い系」と呼ばれる人々への風当たりが強くなっていることは、多くの人が知っているでしょう。もともと自分を前面に出す活動的な人は、活躍する機会が多い反面、どうしても批判を受けてしまいがちです。
私の周囲の起業家やフリーランスの人々は、昔からこの「意識高い系」にカテゴライズされる人が多く、その「意識の高さ」が批判的に語られるシーンを少なからず見てきました。そして日本全体を見渡してみても多くの起業家志望の人々が存在しており、特に「意識高い系」の人々が独立開業を目指す確率は高いのではないかと思います。
そこで今回は、意識高い系の独立開業について、私自身や周囲の経営者・フリーランスの実態を踏まえて考察してみました。
「意識高い系」の定義は何か
まず、いわゆる「意識高い系」と呼ばれる人々がどういうキャラクターなのか、明確にしておきましょう。
Wikipediaによると、「意識高い系」とは『自分を過剰に演出するが中身が伴っていない若者、前向きすぎて空回りしている若者、インターネットにおいて自分の経歴・人脈を演出し自己アピールを絶やさない人などを意味する俗称』と定義されています。
出典:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%8F%E8%AD%98%E9%AB%98%E3%81%84%E7%B3%BB
このことから、主に自分を過度に演出してアピールしたり、常に物事をポジティブに考えて空回りしてしまっている人を意識高い系と呼ぶことがわかります。ただ最近では、若者に限らず、過度に自己アピールをしたり、大言壮語をする人を広く「意識高い系」とみなす傾向が強まっています。
「意識高い系」の典型はスーツ姿で闊歩する大学生
実際に「意識高い系」の代表例のように扱われているのは、大学生活の早い段階で一流企業に就職するための活動を躍起になっている人で、周囲の人々からある意味「浮いた」行動をとっている人が多いようです。
確かに私の大学生時代にも、入学当初からスーツ姿で構内を闊歩するような人がおり、一部のダラダラと学生生活を送っているような一般的(?)な学生から顰蹙を買っていたのを覚えています。のんびり学生生活を送りたい人からすれば、数年後に迫っている就職活動のシーンを早い段階で見せられている気分になり、面白くないのでしょう。
また、そういった意識の高い学生は自分の目標を常に明言し、時には身の丈に合わない行動をする傾向があるため、周囲からは「背伸びをした痛々しい人」に映るケースも少なくありません。
意識高い系の究極は学生社長?
そして、「意識高い系」の人々のなかには、大学生でありながら早い段階で起業を目指していたり、すでに小さいながらもビジネスをしている人も少なくありません。現在でも、起業ブームというほどではないにせよ非常に意識の高い学生社長がいます。
読者の方のなかにも、学生時代に起業を目指していた人や、就職活動をせずに自分の会社を興そうと考えていた人もいるのではないでしょうか?
あるいは、一度就職したものの、近いうちに会社を辞めて独立したい…そう思っている人も多いのではないかと思います。もしかすると「意識高い系」と呼ばれて複雑な感情をもったことのある人もいるかもしれませんね。
意識高い系とポジティブシンキング
そういう「意識高い系」の人々が痛い目で見られる理由としては、上述のように「中身が伴っていない」とか「前向きすぎて空回りしている」といった点が挙げられます。特に過度にポジティブで空回りしている点を批判する声が多いようです。
確かに独立起業を目指す「意識高い系」の多くはポジティブな傾向にあり、なかには自己万能感に溢れている人もいます。要は「自分は何でもできる」と思っている人であり、常に前向きな行動を前面に押し出してきます。
しかし、これは若手の起業家に限った話ではなく、とりわけ中小企業の社長に多いのが私の印象で、その背景にはかつての自己啓発ブームを背景とした過度なポジティブ思考が大いに影響しているのではないかと感じています。
ポジティブ思考は危険?
一昔前までは、本屋に大量のポジティブ思考に関する書籍が並んでおり、成功するには必ずポジティブでなければいけないといったような極端な教えを広めるものも多くありました。
そういう考え方の影響を受け、多くの経営者が「どんな状況でもポジティブに考えなければいけない」という信念を持つに至りました。最近の「意識高い系」もこの考え方に大きな影響を受けているのでしょう。
しかし、近年は過度な「ポジティブ思考」は危険だという認識が心理学者であるガブリエル・エッティンゲンなどの研究で広まっており、それまでのポジティブ信仰への疑義がもたれはじめています。
たとえば、自分の将来についてポジティブなイメージをし続ければ成功のための行動をとりやすくなるというのが、これまでポジティブ思考の大きなメリットとして語られてきました。
しかし、エッティンゲンらの行ったドイツの大学生を対象とした研究により、ポジティブなイメージを繰り返した人ほど、結果を出しづらくなるということが明らかになっています。
出典:『成功するには ポジティブ思考を捨てなさい 願望を実行計画に変えるWOOPの法則』ガブリエル・エッティンゲン (著), 大田直子 (翻訳)
変な宗教に嵌る経営者が多いワケ
さらにポジティブ思考に嵌り込んでしまうと、メンタルが安定しなくなり、急にネガティブになったり、逆に現実とかけ離れた思考に傾倒したりするケースが多いことが明らかになっています。変な宗教やスピリチュアル系の考え方に嵌ってしまう経営者が少なくないのはこのためです。
つまり「俺(私)はこんなにポジティブに考えているのに上手くいかない。こんな自分は駄目だ」と思い込んで逆にネガティブになってしまったり、あるいは「まだまだポジティブさが足りないんだ」と考えて、ますます極端な思考をするようになったりしてしまうのです。
そういう極端な考えを自分の中だけで整理できればよいのですが、経営者の中にはこういった価値観を自分の会社に反映する人が多く、近年社会問題となっているブラック企業の根本的な原因となっているケースがあります。
ポジティブ社長は「ブラック化」しやすい
たとえば、前向きな考え方さえあれば「長時間労働も喜んでできる」とか「プライベートを削って会社に奉仕することが成長につながる」といった極端な主張をする経営者がいますが、これは「自分=会社」と考えてしまっている典型例です。
いわば自分のメンタルの問題を組織全体の問題と混同していて、会社の業績が振るわないと「ポジティブさが足りない」と考えてしまいます。そしてそれを従業員にも押し付けてしまうわけです。
しかし残念ながら、それは経営者自身のメンタルの問題であって組織や部下の問題ではありません。自分自身の焦燥感を埋めるためにポジティブさを「ゴリ押し」しても、自分の考え方や捉え方を変えない限り結局は上手くいかないのです。
意識高い系は自分のメンタルに向き合おう
ただし、前向きな行動や考え方が悪いというわけではなく、あくまでも現実に根ざした自然な考え方をする必要があるということです。
巷で批判される「意識高い系」も、過度なポジティブさや大げさな自己演出が疎まれているだけであって、前向きな姿勢そのものが批判されているわけではないでしょう。
確かに自己啓発セミナーなどが全盛期の頃は、ポジティブ思考こそが成功の源と考える傾向が非常に強くありました。現在でもそういった考え方を広めているセミナー講師がたくさんいるようですが、上述のように、そういった考え方は逆効果になる可能性が高いです。
自分が「意識高い系」だと感じている人は、ぜひ自分の考え方に極端なところがないか、不自然にポジティブになろうとしていないか自問してみてください。まず空回りしている自分自身に気づくことが重要なのです。